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私は暗夜行路の流れる景色のような文章が好きだ。
ぜひロッジで、浜で、石段で、読んで下さい。
暗 夜 行 路

 景色はいい所だった。寝ころんでいていろいろな物が見えた。前の島に造船所がある。そこで朝からカーンカーンと金槌を響かせている。同じ島の左手の山の中腹に石切り場があって、松林の中で石切り人足が絶えず唄を歌いながら石を切り出している。その声は市のはるか高い所を通って直接彼のいる所に聴こえてきた。
 夕方伸び伸びした心持ちで、狭いぬれ縁へ腰かけていると、下のほうの商家の屋根の物干しで、沈みかけた太陽のほうを向いて子供が棍棒を振っているのが小さく見える。その上を白い鳩が五、六羽せわしそうに飛び回っている。そして陽を受けた羽根が桃色にキラキラと光る。
 六時になると上の千光寺で刻の鐘をつく。ごーんとなるとすぐコーンと反響が一つ、また一つ、また一つ、それが遠くから帰って来る。そのころから、昼間は向い島の山と山との間にちょっと頭を見せている百貫島の燈台が光りだす。それはピカリと光ってまた消える。
造船所の銅を溶かしたような火が水に映りだす。
 十時になると多度津通いの連絡船が汽笛をならしながら帰って来る。へさきの赤と緑の灯り、甲板の黄色く見える電灯、それらを美しい縄でも振るように水に映しながら進んで来る。もう市からはなんの騒がしい音も聴こえなくなって、船頭たちのする高話の声が手に取るように彼の所まで聴こえて来る。
造船所イメージ

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監修 写真家 村上宏治
 
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