
千光寺 |
前の島を越して遠く薄雪を頂いた四国の山々が見られた。それから瀬戸海のまだ名を知らぬ大小の島々、そういう広い景色が、彼にはいかにも物珍しく愉快だった。煙突に白く大阪商船の印をつけた汽船が、前の島の静かな岸を背景にして、時々湯気を吐きちょっと間をおいて、ぼーっといやに底力のある汽笛を響かしながら、静かにはいって来た。上げ潮の流れに乗った小船が思いのほかの速さでその横をすれ違いにこいで行く。そして、幅広い不格好な渡し船が流れを斜めに悠々とこぎ上っているのが見られた。しかし彼はこういう見慣れない景色をながめていると、やがてこれにも見あき、それがいい景色だけにかえって苦になりそうだというような気がした。 |