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私は暗夜行路の流れる景色のような文章が好きだ。
ぜひロッジで、浜で、石段で、読んで下さい。
暗 夜 行 路
千光寺イメージ
千光寺

 前の島を越して遠く薄雪を頂いた四国の山々が見られた。それから瀬戸海のまだ名を知らぬ大小の島々、そういう広い景色が、彼にはいかにも物珍しく愉快だった。煙突に白く大阪商船の印をつけた汽船が、前の島の静かな岸を背景にして、時々湯気を吐きちょっと間をおいて、ぼーっといやに底力のある汽笛を響かしながら、静かにはいって来た。上げ潮の流れに乗った小船が思いのほかの速さでその横をすれ違いにこいで行く。そして、幅広い不格好な渡し船が流れを斜めに悠々とこぎ上っているのが見られた。しかし彼はこういう見慣れない景色をながめていると、やがてこれにも見あき、それがいい景色だけにかえって苦になりそうだというような気がした。
 彼はうで玉子を食いながら、茶店の主から、前の島が向かい島、その間の小さい海が玉の浦だというような事を聞いた。玉の浦については、この千光寺にある玉の岩のてっぺんに昔、光る珠があって、どんな遠くからでも見られ、その光で町では夜戸外に出るにも灯りがいらなかったが、ある時、船で沖を通った外国人が、この岩を見て売ってくれと言いに来た。町の人々は山の大きな岩を売ったところでまさかに持っては行かれまいと、承知をすると、外国人は上の光る所だけをくり抜いて持って行ってしまった。それからは、この町でも月のない夜はほかの土地同様、提灯を持たねば戸外を歩けぬようになったという話である。
 「今も、岩の上には醤油樽にふた回りもあるおおけえ穴があいとりますがのう。まあ今日らで申さば、ダイヤモンドのような物じゃったろういう事です。」
 彼は町の人々が祖先の間抜けだった伝説をそのまま言い伝えているところが、なんとなくのんきで、おもしろい気がした。
−−中略−−

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監修 写真家 村上宏治
 
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